やはりあるのだろう、破滅の恋。

レイチェル
ダフネ・デュ・モーリア/作
務台夏子/訳
創元推理文庫

もうひとつの「レベッカ」ー
裏表紙にあったこの言葉に惹かれて手に取った。
デュ・モーリアの作品というだけで、読む価値は充分にある。

従兄のアンブローズは両親を早くに無くした”わたし”ーフィリップを
自分の後継者として、たったひとりの肉親として大切に育ててくれた。
“わたし”にとって、そんな絶対の存在、敬愛する彼が
イタリアで出逢った遠い親戚レイチェル。
美しい彼女は女嫌いで偏屈なアンブローズをあっという間に虜にする。
その知らせは結婚、しかも異国でという驚くべき形で“わたし”の元に届く。
そして、それから急速に心身を壊して行くアンブローズ。
母国イギリスを懐かしみながら、結婚後一度も帰ることなく
異国の地イタリアで急逝する。
“わたし”への、謎に包まれたいくつかの手紙を残してー

筆の巧さで読者を惹き付ける力はすばらしい。

読んでいて、どうしても主人公である”わたし”の
破滅に向かわざるを得ない恋の仕方が歯がゆくてならなかった。
理性はどこへいったのか。
いや、そんな問いはナンセンスなのだけれど。
そもそも恋する人間に、理性の入り込む余地なんてないのだろうが
それでも傍観者には歯がゆくて恐ろしくてたまらない。
どうにかならなかったのだろうか。
”わたし”フィリップの語りで進められて行くストーリー。
それだから、主人公の壊れていく有様が余計にリアルで恐ろしい。

どうにかなるはずはない。
彼女に出逢った瞬間に、動き出した破滅へのプロセス。
それだけの恋に出逢えたことを、幸せというべきか。
人生の破滅という、大きな代償を払ったのだとしても。