これぞ、小説。

レベッカ(上巻・下巻)
デュ・モーリア/作
大久保康雄/訳
新潮文庫

本は嗜好品だ。
誰にとっても、好きな作家と好きな本がある。
それ以上に、愛してやまないそれらも。
また、好みとは別に、尊敬する作家というのがある。
そのテーマや、作品が醸し出す雰囲気に共感しなかったり、
正直好きになれなくても、作品を、それを生み出す作者を
尊敬せざるを得ないということもある。
デュ・モーリアは、私にとって、尊敬せざるを得ない作家。
巧すぎる。ぐいぐい読者を引っ張る力。
終わりまで一気に読ませてしまう、その力は本当にすごい。
彼女の代表作「レベッカ」を読んだのは、高校の頃だ。
冒頭からいきなり読ませる。
当然のように出てくる、“マンダレイ”というその言葉。その響き。
それが屋敷で、“わたし”はもう住んでいないということは
彼女が語ってくれる。見た夢を、語るという方法で。
なんの事情があったのだろう。愛しているはずのその場所から
“わたしたち”が立ち去らなければならない理由とは。
のっけから、想像させる。ぞくぞくするほどの期待感。
期待は裏切られることなく読み切った。
その期待感、そして読後感は鮮明に記憶している。
その頃の自分にとって、読み切ったことも
重たいなかにもどこか清々しい読後感も
この小説が大事だと思える大きな要素だったように覚えている。
だからこそ、読んだのだ、今回取り上げたかった作品を。

「レイチェル」は、また次に。