鎌倉での、うれしい出会い。

今年のゴールデン・ウィーク。 

江の電 長谷駅から鎌倉まで歩いていた時のこと。 
随分歩いて、歩き疲れているはずなのに 
なぜかそう感じなかった。 
疲れを通り越して、“ウォーキング・ハイ”になっていたのかも。 
とにかく、周囲の子どもたちに負けないくらいのテンションで 
年甲斐もなく、歩きながら鼻歌歌ったり踊ったり、スキップしたりしていると。 
ふと目の前の家の壁に、見覚えのある絵が描かれているのに気がついた。 
『わたしのワンピース』のうさぎやら 
『ぼくは王さま』の王さまやら。 
(これは。。。) 
何かを感じて立ち止まると、表の看板に 
「Song Book Cafe」の文字。 
(ブックカフェ。やっぱり。) 
中をのぞけば、可愛らしくも狭い一間の周囲の壁が、ぐるっと本棚になっていて 
たくさんの絵本がぎゅうぎゅうに詰まっている。 
その真ん中に、大きなテーブル。それを囲んでお茶を飲んでいる人、人、人。 
「お茶、飲んで行く?」 
ドアにへばりついて、中をのぞいている私に相方から声がかかった。 
大混雑の、しかも狭い歩道に陣取っていた私は、素直にその声に従った。 
「うん」 
お茶、という言葉を耳にしたとたん、“ウォーキング・ハイ”が解けたみたい。 
そっと入って、ちょうどふたつ、開いている席に腰をおろした。 

紅茶は濃くて苦かった。 
冷たい紅茶は入れるのが難しいのだ。 
「これは素人の仕事だね。」 
失礼なことをつぶやきつつ、周囲を見回す。 
棚におさめられているのは絵本ばかり、しかも、すべてが日本のものだった。 
周囲の壁には、たくさんの絵。絵本画家の絵ばかりだ。 
そのなかにひとつ、肖像画風に描かれている、なじみの絵があった。 
それは、「ひろたかなり」という名前の、園長先生の絵。 

『おばあちゃん すごい!』 
中川ひろたか/文 村上康成/絵 
童心社 

ある日のこと。 
「ひろたかなり」という子を探して、おばあちゃんが園にやってきた。 
「そんな子、いないよ」と、子どもたち。 
でも、おばあちゃん、すごい! 
けんだまも、おてだまも、あやとりも、おりがみも。 
なんでも上手。一緒に遊ぶと、なんでも楽しい! 
そこへ園長先生がやってきた。 
「おや、ひろたかなり!」 
「あれ、おかあさん!」 
おばあちゃんの探していた「ひろたかなりくん」は、園長先生!? 

先日の読み聞かせで使ったばかりの絵本。 
その、ひろたかなりくんが、このカフェにいる。。 
壁にかかった園長先生の絵と、何度も見比べる。 
そっくり。もう、そうとしか考えられない。 
思い切って、話しかけてみた。


中川ひろたかさんですか?」 
「そうですよ。」 
(やっぱり!!!) 
「私は某区の図書館で、子どもの本の担当をしています。 
読み聞かせではお世話になっています!」 
すると、中川さん、とてもうれしい顔をしてくださった。 
「ええーー!そうですか。こちらこそお世話になっています!」 
ふと、疑問に思っていたことをぶつけてみる。 
「ひろたかなりくん、て、中川さんと村上さんのお名前をくっつけたんですか?』 
すると、中川さん、くしゃっと笑って棚から一冊の絵本を取り出した。 
「村上さんが、ここで園長先生の名前をこう書いちゃったんです。 
だから、もうそうしないといけないでしょ。でもこの名前不評で。 
どこで区切って読めばいいんですか、ってよく聞かれるんですよ!」 
「へえ!そういうことだったんですね!!」 

作家と画家のやりとりがとてもユーモラスで楽しい。 
信頼関係があること、一連のお二人の作品でなんとなくわかっていたけれど 
そんな裏話がご本人から聞けたことが、おもしろくてうれしかった。 

「ぜひ、また来てくださいね。」 
そんな言葉と笑顔の中川さんに見送られてお店を後にした。 
日頃親しんでいる絵本の作者に出会い、言葉を交わせたなんて。 
予期せぬ幸せな瞬間だった。 
“図書館で子どもの本を担当している” 
私のその言葉を聞いて、絵本作家である 
中川さんがとてもうれしそうにしてくれたことー 
何よりそれが私にはうれしかった。 

私にとって、ずっと変わらない目標がひとつだけある。 
それは、子どもにすばらしい本を紹介し続けること。 
鎌倉でのこのうれしい出会いは、これからも 
私を勇気づけてくれると思う。